2022年4月25日発売の週刊ヤングマガジン2022年21・22号で、『アルキメデスの大戦』第311話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第311話は、上層部からの曖昧な命令に戸惑う、ハワイの米陸海軍の様子が描かれます。
諸々の世情から、ブラジルやカナダ、サンフランシスコやハワイなど各地で日系人の存在が疎んじられていた。
そんな状況の中、米政府から日米開戦が差し迫っているとの警告が発令されると、各地で日系人に対する警戒の度合いは頂点を迎える。
同じ頃、ハワイの米陸海軍では上層部からの命令にアタマを悩まさせていた……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第311話[ニイタカヤマノボレ]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦311話のあらすじネタバレ
【ハワイの日系人対策】
明治開国以来、政府の後押しもあって一部の日本人は海外へ新天地を求め移住。
中でもハワイを移住先に選ぶ者は多く、またハワイ経路でアメリカ西海岸に新天地を求める者も少なくありませんでした。
日本人は移住先の各地で特有の勤勉さと我慢強さが重宝され、偏見の中も多くの者が新たな生活基盤を築き上げることに成功します。
しかし、世界大恐慌以降、移住先の各地で状況は一変。
その勤勉さと我慢強さが逆に仇となり、現地人の日系人に対して偏見と差別、風当たりが強さを増します。
その背景には日中戦争、ドイツとの同盟など、日本の軍事行動に対する不信感からくる理由もありました……
米国政府は日本との戦争が現実味を帯びてくると、ハワイの日系人の取扱いに苦慮します。
それはハワイにおける日系人の割合は総人口のおよそ三分の一にのぼり、白人やハワイ人と比較して圧倒的多数を占めていたからでした。
ハワイに基地を置く米軍は当然、日系人によるテロ行為や破壊工作を警戒。
軍上層部は整備と管理、何より警備しやすいように航空機を集結させて配備するよう命令を出しました。
これにより警備が容易になった反面、攻撃された場合、一撃で全機が破壊される危険を懸念する声も……
【ハワイ・太平洋艦隊司令本部】
太平洋艦隊司令長官・キンメル大将を筆頭に幹部が集まり、軍上層部からの命令に対し協議の場が設けられます。
協議は上層部からの命令をどのように解釈したらいいのかを検討することにありました。
対日開戦が差し迫る現況においても、上層部から出される命令が一貫して曖昧なものに終始していたため、その不明瞭さにキンメルはアタマを悩ませていたのです。
キンメルと幹部たちは会議室で机を囲み、上層部からの曖昧な命令の意味を文書から読み取ろうと各々が解析を行いました。
キンメルは幹部たちの意見をまとめた結果、命令内容を”住民に不安を与えることなく日本軍に警戒を怠るな”と解釈します。
命令書には明確に日本軍と交戦していいのかどうかは記されておらず、その判断を現場に押し付けているのは明白でした。
キンメルはこれを上層部の責任逃れだと憤慨。
さらに命令書には”積極的防衛のみ許可する”とされており、これは日本の攻撃後に積極的に反撃するのは問題ないと言ってるも同然で、キンメルはこれにも腹を立てます。
なぜならこれはつまり、日本軍の先制攻撃をあえて見逃せ、あえて許せと言ってるようなものであったからでした。
にもかかわらず、”警戒を怠るな”という命令。
ある意味、矛盾とも、兵士の命を軽視とも取れるこの命令に、軍人であるキンメルが腹を立てるのも無理はありませんでした……
【焦り苛立つキンメル】
12月1日
ハワイのアメリカ太平洋艦隊に日本海軍艦艇の所在が不明になったとの連絡が入りました。
キンメルはこれを日本軍が作戦行動に入ったものと推測。
幹部たちを集め、日本軍が攻撃態勢に入った以上は必ずくると、24時間体制で警戒を怠ることのないよう指示を出しました。
翌日、キンメルは太平洋艦隊・情報主任参謀のエドウィン中佐を呼び出します。
消息が不明となった日本軍の艦船について何か情報が入っていないかを聞くためでした。
エドウィンは”おそらく”日本の艦船は日本近海にいるであろうと答えますが、キンメルは”おそらく”というまたも不明確な文言に激怒。
エドウィンが作戦部長のスタークの名前を出し、日本軍がハワイにやってくることはないと思われることを説明しますがキンメルの怒りはおさまりません。
日本軍艦船が所在不明なこと、さらに上層部からの不明瞭な命令、情報部からの不確かな情報に苛立ちをどうにも抑えることができないでいました……
【運命の攻撃命令】
その頃、北太平洋をハワイに向かって航行中の日本軍航空機動部隊旗艦・空母「赤城」に本国からの入電がありました。
すぐさま電信室から艦橋にいた南雲長官や櫂を含む幹部将校らに中身が伝えられます。
電報にあったのは攻撃命令を意味する”ニイタカヤマノボレ一二〇八”の文言。
すでに覚悟を決めていたとはいえ、実際に攻撃命令が下されたことに動揺せずにはいられない櫂なのでした……

アルキメデスの大戦311話の感想と考察
【不明瞭な命令】
今回は櫂が指摘していた、政府上層部ならびに軍上層部は必ず自分たちが責を問われないように動くということを見せるお話でした。
米国政府や情報部は実際には日本軍の動きをある程度は予測していたことは間違いありません。
軍の暗号も政府の暗号も米国は解読に成功していたのですから当然と言えば当然でしょう。
ですが米国のお家芸”リメンバーなんちゃら”を作り出すため、上層部はあえて明瞭な命令を現場に下さなかったのが私は真実だと思っています。
このことに対する本作「アルキメデスの大戦」の史実解釈も概ね私と同じであることが今回の不明瞭な命令でハッキリしました。
今回作中で怒りを露わにしていたキンメルですが、当然といえば当然の反応でしょう。
実際も犠牲となった現場、兵士を預かっていた責任者として、たとえ大義、大局を見据えた命令であったと後で知ったとしても、拭えぬ忸怩たる思いが生涯ささくれのように心に残ったのではないかと思います。
真珠湾攻撃以降の日本軍に対するキンメルのモーレツぶりから、ふとそんなことが頭をよぎりました。
【タラレバがひたすら続く本作】
ついに漫画「アルキメデスの大戦」は日米開戦を迎えるに至ってしまいました。
櫂はこれまで作中でアメリカとの開戦を回避するべく世界中を飛び回り、文字通り奔走してきたといえます。
その代表が”櫂の”戦艦「大和」であり、”櫂の”「ゼロ式」でしょう。
私は少なからずそれら櫂が(作者が)提示する開戦回避策に現実の史実を照らし合わせ、誰しも想像したことがある幻想の日本を見せてくれると信じ、ここまで追いかけて読んできました。
しかし、ことごとくその期待は見事に裏切られ、ついに木っ端微塵に砕かれてしまいました。
読者の期待を裏切る、または上を行くのが漫画家の真髄であるならば、本作は成功といっていいかもしれません。
で・す・が、これだけは記しておきます。
連載当初からここまで肩すかしばかりで、エンタメとしてあまりに爽快感がなさすぎではないでしょうか。
このまま肩すかしを続け、史実通りに完結を迎えたとしたら、コミック最終巻を待たずに持ってるの全巻売り払っちゃうだろうなあ。
櫂の(作者の)タラレバを読むだけなら、漫画である必要は全くありませんし、箇条書きで済みますからね。
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