2022年4月18日発売の週刊ヤングマガジン2022年20号で、『アルキメデスの大戦』第310話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第310話は、日本政府から日米交渉における方針を知らされた在米日本大使たちの落胆の様子が主に描かれます。
嶋田に開戦準備が整っているのは今だけだと煽られた東條は開戦の腹を決める。
日米交渉に期限を設けることを決定した日本政府はその旨を在米大使館へ通達。
交渉に一縷の望みをかけていた特命全権大使の来栖や外務省の丹原は落胆の色を隠せなかった……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第310話[洋上の夜]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦310話のあらすじネタバレ
【ワシントン・在米日本大使館】
1941年11月27日
在米大使館に日本政府から通達が届く。
通達は日米交渉についての政府決定を知らせるものでした。
内容は交渉期限を11月末日とし、それまでに交渉がまとまらない場合は交渉を打ち切るとあり、その後の指示についてはなにもありません。
全権大使の野村、特命大使の来栖、両者共に中途半端な内容の通達に困惑します。
ここまで交渉妥結の見通しはつかないものの、交渉を打ち切る程の決定的理由は見当たりません。
来栖たちとしては表面上だけでも粘り強く交渉を継続していけば、現在とはまた違った状況に変わることもあると考えていました。
政府にもそのことは伝えており、その方向で考えているものと思っていたため、今回の決定はまさに寝耳に水のごとし。
来栖はこうまで日本政府が交渉の打ち切りという強気な姿勢を見せる背後には、同盟国ドイツの快進撃幻想があるのではないかと疑います。
在米外務省職員たちが独自のツテを使って集めた情報ではドイツの進撃はすでに停滞傾向にありました。
ソ連軍と冬将軍の到来によってモスクワ攻略は苦戦を強いられ進、イギリス本土への上陸も頓挫したまま。
パリ攻略の頃が嘘のようにドイツが勢いを失くしているとの情報を得ていたのです。
来栖はこれら情報と認識をきちんと把握できていないからこそ、政府は交渉打ち切りなどという強気な姿勢でいるのではないかと、野村に政府へ交渉継続を続けるように働きかけを求めました。
その時、丹原がもはやそんな状態にないのではないかと口を挟みます。
すでに日本では対米開戦準備を終えており、だからこその交渉打ち切り期限なのではないかと静かに訴えました。
駐在武官からは何も連絡はきていないものの、敵本国駐在の自分たちへの通知は直前となるのは当然のことだろうと丹原は話します。
それは軍が外務省の暗号を全く信用しておらず、アメリカに傍受・解読されていると考えているために他なりません。
丹原の話を聞き、野村をはじめ来栖や外務省職員たちも、なぜ交渉期限が残り4日とわずかな日数しかないのか、その理由を確信するのでありました……
【北太平洋・空母「赤城」】
1941年11月28日
0時12分
作戦準備に余念がない櫂が労務を終えて自室に戻るのは大抵深夜。
この日も自室に戻ったのは午前0時すぎでした。
櫂が部屋に入ろうとしたその時、軍医長・荒又大佐に声を掛けられます。
荒又は自分の部屋で寝酒を少しやらないかと櫂を誘いました。
櫂は二つ返事で快諾し、荒又の部屋へと移動。
酒を口にし、日頃の緊張から一時でも離れるつもりでいた二人でしたが、どうしても話す内容は対米戦のことになってしまいます。
荒又はハワイ作戦が奇襲攻撃であることから、どうしてもアメリカがどこまで日本軍の動きを掴んでいるのかが気になっていました。
なぜなら米軍にこちらの動きが筒抜けで、準備万端で待ち伏せされでもしたら日本軍の敗北は必至であることは明白と考えていたからでした。
荒又はその辺のことを櫂に聞きたくて偶然を装い、櫂の部屋の前でそれこそ「待ち伏せ」していたのです。
櫂は荒又の不安に対して正直に、それでいて身も蓋もない返答で応えました。
日本軍の暗号は丸っとアメリカに解読されており、ほとんど意味を成していない、いわば網目の大きいザルであると…
それでは日本軍は大惨敗を喫してしまうのではないのかと荒又は危惧します。
しかし櫂は自信満々にハワイ奇襲作戦は成功すると明言。
情報は上に行けば行くほど価値が失われいき、途中でいろいろな思惑が入り乱れて結局は握り潰されてしまうと、自身の経験をもとに話しました。
それは日本であろうとアメリカであろうとだいたい似たり寄ったりであり、正確な情報をもとに適切な行動をとることは困難であると説明します。
さらに櫂はアメリカ政府中枢と交渉をした経験をもとにアメリカの取りうる対応を予想。
仮にこちらの攻撃情報が漏れていたとしても、アメリカの各機関は責任逃れの漠然とした指示しか出せないことが予想出来るとまで言って聞かせ、荒又の不安を取り除いてあげるのでした……
【ホノルル・日本総領事館】
1941年11月28日
在ホノルル日本総領事館の総領事・喜多は外務省の吉村から、米空母「エンタープライズ」が真珠湾を出港したことを知らされます。

アルキメデスの大戦310話の感想と考察
【騙し討ち】
いよいよ今も問題視される「日本軍による騙し討ち」が本作で描かれようとしています。
日本は攻撃開始時刻の30分前に宣戦布告にあたる「対米覚書」をハル国務長官へ手渡すよう指示を出しました。
しかし攻撃前夜に大使館に送られてきた「対米覚書」が長文で分割されており、解読に手間取ってしまい、野村全権大使と来栖特命大使がハルと面会したのは攻撃開始から1時間半あまり経ってからになってしまったのです。
ハルはこれに対して日本は無警告攻撃してきたと非難。
その後「無警告攻撃」は「騙し討ち」として国民感情を煽る体のいいキャッチコピーとしてさんざっぱら利用されたのは皆さんもご存知でしょう。
この遅延の責任を本作ではどう描くのか、誰が原因とするのか注目したいと思います。
【空母エンタープライズ】
言わずと知れた、第二次大戦中もっとも活躍したとされる空母です。
このエンタープライズが奇襲攻撃の際に真珠湾に居なかった理由はウェーク島への任務のため湾を出港していたからでした。
しかし、莫大な税金を投入して竣工したばかり、そんな虎の子であるエンタープライズをむざむざ沈没されることを嫌ったアメリカ政府が日本軍の攻撃を避けるため、攻撃直前にあえて任務を与え、真珠湾から出航させたのではないかという疑惑もまことしやかに語られてもいます。
急な任務と出港も含め、真珠湾への帰港日があまりに都合の良いタイミングであったがために、今もこのような疑惑も語られているのでしょう。
このエンタープライズの行動こそがアメリカ政府が事前に真珠湾攻撃を掴んでいた証拠であるとする意見もあります。
なんせ日本の暗号は当時完全に解読されていたのですから、アメリカが真珠湾攻撃の予定時刻を全く掴めていなかったというのは無理がありますよね。
奇しくも今回、櫂は暗号がだだ漏れであったとしても、アメリカが真珠湾で待ち構えているとは思えないと断言していました。
その理由も含め、次回以降が楽しみです。
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