2022年4月11日発売の週刊ヤングマガジン2022年19号で、『アルキメデスの大戦』第309話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第309話は、日米開戦という名の禁断の箱を開けようとしている陸海軍トップの二人が描かれます。
まだ日米開戦回避にわずかな望みがある中、櫂のいる海軍航空部隊は一路ハワイを目指していた。
空母「赤城」艦内では、南雲司令長官を筆頭に幹部将校たちが作戦について確認徹底。
一方、首相官邸では東條・嶋田・東郷らが米国務次官ハルがよこした通達への対応を協議するが……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第309話[パンドラの箱]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦309話のあらすじネタバレ
【空母「赤城」】
1941年11月27日
14時26分・北太平洋
海軍航空部隊の艦隊は荒れ狂う海原の中、一路ハワイを目指し航行。
空母「赤城」艦内では南雲司令長官を筆頭に幹部将校たちが集まり、作戦概要についての確認が徹底されていました。
航空艦隊の航空甲参謀・源田実中佐が作戦における航空攻撃の概要を説明。
・第一次攻撃隊、全183機が各空母から発艦。
・その約1時間後に第二次攻撃隊、全171機が発艦。
・現地時間12月7日午前7時オアフ島到着、真珠湾へ突入し攻撃を開始。
・爆撃隊の最優先攻撃目標は航空基地と要塞砲群。
・攻撃機は敵艦艇に対する雷撃。
・戦闘機は迎撃に出た敵機並びに航空基地への機銃掃射。
・各空母は帰還した戦闘機を艦内に速やかに収容し整備点検及び補給。
南雲は概要を聞き終え、航空攻撃の最優先目標に港湾軍事施設を入れなくても本当に良いのかどうかを源田に尋ねます。
源田は港湾軍事施設の破壊は戦艦部隊が担当することを伝え、その成功のために攻撃隊による要塞砲群への攻撃が大事になると返答。
南雲は自分が関与していないこともあってか、戦艦部隊に対して一抹の不安を抱いていました。
航空部隊とは別行動を取る戦艦部隊との連係がはたして予定通りにいくのかが不安だったのです。
戦艦部隊を率いるのは山本長官。
南雲は櫂が山本の側近でもあることから、連携についてを尋ねました。
櫂は戦艦部隊は山本が直卒し、トラックよりの侵攻が確約されていると返答。
続けて櫂は戦艦部隊の攻撃計画の概要を説明します。
・戦艦部隊の旗艦は「大和」。
・戦艦部隊はオアフ島に向けて現在航行中。
・航空攻撃隊が要塞砲を爆撃したあと、「大和」からの艦砲射撃でオアフ島の軍事施設を徹底的に破壊。
幹部将校たちは説明を聞き、旗艦がこれまでの「長門」から「大和」へ移ったことを知って興奮の色を隠せません。
これは海軍内で「大和」にまつわる噂が噂を呼び、なかば神格化していたからに他ならず、精神的支柱のような存在にまで祀り上げられていたことが理由でした。
櫂は基地破壊がその後の上陸作戦、ハワイ占拠の布石であり、また必須条件であると語気を強めて訴えます。
ハワイ占拠こそが米国との戦争を早期に終結させる要であったからでした。
ところが…
南雲は基地破壊や占拠のことよりも、敵空母のことが気がかりでこだわります。
南雲が敵空母を何としても仕止めねばならないと固執する訳は極度に敵からの反撃を恐れてのこと。
大局的観点から奇襲作戦を考える櫂と、あくまで奇襲作戦の成功のみを考え、一時の反撃を恐れる南雲では見据えるものが違いました。
【日本・首相官邸】
1941月11月27日
午後5時9分・日本
首相官邸では米国務次官・ハルが通達してきた要求案について東條らが協議していました。
海軍大臣・嶋田はハルの要求は到底呑めるものではなく、もはや決着をつけるしかないと、暗に開戦を示唆します。
これに対して外務大臣・東郷は、ハルの通達にはこれが最後通牒と書かれていなかったことを引き合いに出し、とりあえずは無視して様子を見ればいいと意見。
あくまで交渉の余地を残すべきだと訴えました。
嶋田はそれではいつまでたっても解決にはならないと声を荒げ、ハルの通達内容自体、ハナから日本側に交渉の余地など持たせないことを前提で書かれていると指摘します。
それでも要求に拘束力はないと明記してあるからには重要視する必要性は必ずしも高くないと、東郷も引き下がりません。
嶋田はダラダラ見込みのない交渉を続けるよりも、開戦の準備ができている今しか決着をつけることはできないとあらためて訴えました。
二人の意見を黙って聞いていた東條。
東條は開戦という名の「パンドラの箱」を開けてしまうことにためらいがありました。
対中国でさえいまだ決着をつけられないでいる中で、対米戦争を同時に行えると楽観視できるほどさすがに思えなかったのです。
しかし…
嶋田の開戦の準備ができているとの言葉に軍人としての矜持をくすぐられます。
東條は交渉に期限を設けることを決めるのでありました……

アルキメデスの大戦309話の感想と考察
【軍人政治家】
今回、首相兼陸軍大臣・東條と海軍大臣・嶋田、そして外務大臣・東郷が日米交渉について協議する場面がありました。
当時の軍事政権とも呼べる政府を端的に現した場面であったのではないかと思われます。
軍人はやはり仲間である軍人や軍のことがまず頭にあり、政治家は軍人や軍のことを駒程度にしか捉えてないことが窺える場面でした。
もちろん東條も嶋田も東郷も国と国民のことを第一に考えるからこそという大前提の上で一応は話をしているわけです。
ところがこれまで東條も嶋田もその大前提を免罪符みたいに使ってお仲間を優遇し、身内内の権力闘争に利用してきました。
心情的にわからなくもありませんが、大前提を私物化してしまったことは否めません。
また東郷も軍や軍人の行動原理や矜持を軽視しているように感じられます。
櫂も東郷同様に未だに軽視しているようなところがありますね。
勝てる見込みがあるならば戦いたくなるのが軍人であり、そこで手柄を立てたいと思うのは仕方のないことでしょう。
人の営みには歴史があって、歴史抜きに今はあり得ません。
軍人にとって歴史とは戦史であり、そこに名が刻まれることは名誉でもあります。
名が刻まれる可能性が見込めるのですから、そりゃあ嶋田も躍起になりますよね。
軍と軍人は勝つことが目的。
であればこそ、軍政権下では純粋な政治家がリスクマネージメントに疎い軍人をカバーしなければなりません。
ですが当時の日本は政府内でも軍の力が極めて強く、軍人の東條が政府トップ。
個人的に、櫂が何しようが開戦は避けられそうもない結果となった本作には少なからずガックリしていましたが、無理もないかと改める気持ちになった今回でした。
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