2022年1月24日発売の週刊ヤングマガジン2022年8号で、『アルキメデスの大戦』第298話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第298話は、丹原の危惧していたことが現実のものとなっていく様が描かれます。
米国にある日本大使館から外務省に第一報が入る。
一報は米国が対日石油輸出禁止を通告してきたことを知らせるものであった。
外務省次官の橋本はその通告という報せに違和感を覚える。
遅れて米国にいる丹原からも電報が届き、次官橋本は……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第298話[特ダネ]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦298話のあらすじネタバレ
【日本・外務省】
1941年7月23日
早朝5時過ぎ
外務省に在ワシントン日本大使館より第一報が入りました。
電報を受け取った宿直番の職員は目を丸くしてその内容に驚きます。
フツインシンチュウニ
コウギ
セキユユシュツ
キンシヲツタエル
職員たちが驚くのは無理もありません。
それは米国で対日石油輸出禁止が決定され、その旨を通告されたと受け取れる電文であったからです。
何の予告も警告も無く、いきなりの通告に常識ある職員たちは驚いたのでした。
いきなりの通告は外交礼儀的にも非常識すぎないかと…。
職員たちはこの報せが誤報である可能性があるとしながらも、上司にはこのまま報告することに。
職員から報告を受けた上司はすぐさま外務次官・橋本英雄と連絡を入れました。
橋本は橋本ですぐさま外務大臣・豊田貞次郎と連絡を取り、急ぎ会議を開くことを提案し、了承を得ます。
【外務省・会議室】
午前8時31分
外務省に駆けつけた豊田と橋本は急ぎ会議の席につきました。
豊田と橋本は電文にある対日石油輸出禁止が通告なのか警告なのかを議論。
橋本は外交の常識でいきなり通告はありえない、何かの間違いの可能性もあると豊田に話します。
その時、タイミングよくワシントンにいる丹原からの電報を携えた職員が会議室に訪れました。
電文には丹原が現在米国側の真意を調査しているので、その報告を待ってから対応を検討して欲しいとの旨が書かれていました。
橋本は丹原の意を汲み取り、豊田に軍への報告は調査報告を待ってからにしてもらえるよう願い出ます。
しかし、豊田は聞いたからには立場上それは無理だと答えました。
ただ、橋本も事が事だけにここで引き下がるわけにはいきません。
軍への伝わり方次第で無用の混乱を引き起こしかねないと暗に脅しをかけ、理解を求めました。
豊田はならばと、自分はまだ何も報告は受けていないことにしてもらえれば橋本の求めに応じることも可能であることを示唆。
あくまで責任逃れを最優先する豊田に、この人ならさもありなんといった感じで橋本はこの提案にも特に驚きはありませんでした。
豊田に頭を下げ、そのように取り図りますと礼を述べます。
【外務省・トイレ内】
暁新聞の政治部記者・稲垣義明は外務省内の空気がいつもと違うことを肌で敏感に感じ取っていました。
稲垣は直感で何かあると読みます。
そこで稲垣は探りを入れるべく、外務省トイレの個室に入り職員たちの会話に聞き耳を立てることに。
固執に入り、じっと息を殺して情報を探ります。
しかしトイレには一人で訪れる職員がほとんどでしかも皆無言、なかなか欲しい情報に出合えません。
それでも何かあるという直感を信じ、ひたすらじっと待つこと数時間。
ついに稲垣の執念が実を結ぶ時が訪れます。
今朝ワシントンからの電報を受け取った宿直の職員二人がトイレに入って来たのです。
稲垣が隠れているとは露ほど思っていない職員二人は、明け透けに今朝の電報内容について語り合いながら連れション。
二人は事を済ませると、軍はどうするんだろうね~と軽口を叩きながらトイレから出て行きました。
稲垣は二人の話は信ぴょう性がかなり高いものであると確信します。
外務省内に漂う緊張感が何よりの証拠。
特ダネを掴み、逸る気持ちが抑えきれない稲垣でした……
【暁新聞本社】
午後4時22分
急ぎ本社に戻った稲垣。
すぐさま局長に外務省で仕入れた米国による石油輸出禁止の特ダネを報告し、明日の朝刊一面で報じるよう直談判。
局長は驚きながらも、この事案は裏付けを取るべきだと慎重な姿勢を見せます。
しかし稲垣は引き下がりません。
この情報を他紙が入手する前に勝負に出るべきだと圧を強めて力説し、部数も伸びてウハウハですよと甘い言葉。
他紙を出し抜ける、部数が伸びるという甘い言葉に踊らされた局長は稲垣に記事にするGOサインを出します。
自分の机についた稲垣は異様なまでの集中力を持って記事の執筆を開始。
稲垣には新聞記者のほかにもうひとつ顔があり、”進歩的文化人”とも揶揄されるゴリゴリの共産主義シンパの顔も合わせもっていました。
稲垣は共産主義を守るため、日本を対ソではなく対米に一気に舵を取らせるべく記事を書き上げます。
それは日本国民をアメリカ憎悪に染め上げ、対米開戦へと扇動する内容に終始していました。
【ワシントン】
日本では暁新聞のスクープ記事によって軍や政府、世間を巻き込んでの大騒ぎになっていた頃、ワシントンにその様子が報告されます。
ハル国務長官からそのことを聞かされたルーズベルトでしたが、特に驚くでもなく動揺もありません。
それどころか、まるで日本が慌てふためいていることを楽しむ余裕さえ見せるのでありました……

アルキメデスの大戦298話の感想と考察
【またしても史実覆らず】
前回、今回と櫂は全く登場しませんでした。
これにより何かいつもと違った展開でもみせてくれるのかもと思いきや、なんのことはありません。
いつもの櫂の役割を丹原が担っただけのことでしたね。
櫂の活躍によって史実が覆る直前まで行くだけ行き、結局第三者によってそれが阻まれてしまうことの繰り返しが「アルキメデスの大戦」の根本です。
此度の一件ではなぜ丹原を櫂のポジションに据えたのかについては、単純にこの時期に櫂がワシントンにいる理由も無ければ、こじつけにしても無理があったからでしょう。
これまでの櫂同様、丹原もまた何の罪もありません。
あるとすればタラレバを繰り返す作者ということでしょうかね……
【実在した櫂のモチーフ】
作中のこの年、史実では4月に第二次近衛内閣が総力研究所という研究機関を立ち上げています。
そこに集められた研究員は、各省庁や陸・海軍のキャリア組、その他にも郵船・製鉄・通信といった所の民間企業から選出されたいわばエリートたちです。
彼らは模擬内閣をつくって日米開戦のシミュレーションを行い、ほぼ史実通りの展開を予測していました。
なんだかいかにも櫂がそのメンバーに名を連ねていそうな研究機関ですよね。
この模擬内閣は結局、総辞職して解散し、研究データに基づいた日本の敗北を本物の内閣に報告。
それが8月のことです。
時の陸軍大臣・東條英機は研究所の報告をあくまでも机上のことだと一蹴し、この件に関して口外を固く禁じました。
どうです?ますます櫂と研究員たちの姿がダブりませんか?
ところが、作中で総力研究所が登場するどころか語られることすらありません。
櫂が作中でこれまでやってきたことの多くは、櫂の天才的頭脳によるシミュレーションが基になっています。
いってみれば、櫂は独り模擬内閣みたいなもの。
もしかすると櫂のモチーフはこの総力研究所そのものなのかもしれませんね。
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