2022年1月17日発売の週刊ヤングマガジン2022年7号で、『アルキメデスの大戦』第297話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第297話は、特命全権大使・野村吉三郎による痛恨の勘違いが描かれます。
国務次官・サムナーは国務長官・ハルからの命令通り、対日石油輸出禁止案を日本大使・野村に示唆。
これはあくまで示唆であり、決して通告ではなかったが野村は通告と受け取ってしまう。
大使館に戻った野村から米国側が対日石油輸出禁止を通告してきたと聞かされた丹原は……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第297話[誤訳]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
<< 296話 | 一覧 | 298話 >> |
アルキメデスの大戦297話のあらすじネタバレ
【米国務省】
国務次官・サムナーから対日石油輸出禁止を通告されたと受け取った特命全権大使・野村は激しく動揺。
狼狽する野村を目の当たりにしてサムナーは若干焦ります。
あくまで示唆しただけのつもりでしたが、もしかすると野村はそうは受け取らなかったのかもしれない……
一抹の不安に駆られたサムナーは野村に確認しようかと一瞬考えましたが、発言は全て書記官が記録にも残していたことから思い止まります。
それは万が一、野村が誤訳して勘違いをしていたとしても、文書に残してある以上、決して通告ではないことはわかるはずだと考えたからでした。
サムナーとの会談を終え、野村は米国務省を後にします。
大使館へ戻る道中の車内、ついに日本が最も恐れていたカードを米国側が切ってきたと野村は思っていました。
仮に戦争になった場合、特命全権大使である自分が何らかの責任を背負わされるのではないかと不安がよぎります。
戦争意思決定には何ら関わらず、全て本国に決めてもらい自分はノータッチで行こうと腹を決める野村なのでした……
【ワシントン・駐米日本大使館】
1941年7月22日
大使館に戻った野村は、丹原をはじめとした外務省幹部を招集し会談内容を報告。
野村の口から米国側が対日石油輸出禁止を通告してきたと聞かされた丹原たちは皆一様に目を丸くして驚きます。
丹原はこの時、いくらなんでもいきなり「通告」はありえない、おそらく米国側は「通告」ではなく「警告」を発したにすぎないのではないかと疑念を持ちます。
野村大使がサムナーの言葉を聞き違いしたのではないか?或いは誤訳しているのではないか?
言葉を選び、野村の機嫌を損ねぬよう、聞き間違いではないかを探ってみることに。
丹原は恐る恐る通告された時の仮定法が「Will」であったのか「may」あるいは「be going to」であったのかを野村に尋ねました。
丹原としては言葉を選んで尋ねたつもりでしたが、誰が見たってそれは野村の誤訳を疑う質問。
野村は自身の英語力を小馬鹿にされたような気がして面白くありません。
ムスッとした顔を浮かべ、丹原に向かって”何が言いたいんだね”と圧を込めて質問返し。
野村の気分を害してしまったことを感じ取った丹原でしたが事が事だけに、ここで引き下がるわけにはいきません。
どんな言葉をサムナーは用いたのかは重要であり、内容によっては本国に伝えることを少し猶予して推移を見守ることも肝要だと進言しました。
野村は会談時「対日石油輸出禁止」と言われ、そのキラーワードが出たことで激しく動揺してしまい、サムナーがどの仮定法を用いていたかの記憶が曖昧でした。
そのため答えようにも答えられなかったのです。
それ以前に自身のプライドが邪魔をし、記憶が曖昧なことを丹原たちに正直に打ち明けられません。
野村は半ば意地になって「対日石油輸出禁止」と言われたのは間違いないのだから、すぐに本国へ打電だと命令。
野村の答えになってない答えに、丹原や外務省職員たちは呆れつつも焦ります。
丹原は日米間の最重要事項である以上、取り扱いを間違えると最悪の事態に繋がりかねないと意見。
丹原たち外務省がツテを使い、米国側から正確な情報を入手し分析にかけてから本国に伝えるのでは駄目かと願い出ました。
野村とて丹原たちのいうサムナーの発言の整合性を確認するべきとの意見は理解できない訳ではありませんでした。
しかしこの申し出を許し、結果もし自身の誤訳であったことが判明した場合のことを考えると、どうしてプライドが邪魔をしてしまい柔軟になれません。
意固地化した野村は、特命全権大使である自分の決定は絶対だとし、あくまでも本国への打電を最優先するように命令を下しました。
【駐米日本大使館・職員休憩室】
野村から命令を受けたその後、丹原と外務省職員たちは野村に内緒で休憩室に集まり協議を行いました。
丹原たちの意見は「通告は野村全権大使の勝手な思い込み」で一致。
そもそも次官が「通告」など外交的にあり得ないこと。
しかし全権大使命令である以上は本国へ「通告」されたと打電しないわけにはいきません。
丹原はとりあえず「通告」で本国へ打電し、自分たちは独自にサムナーと野村の会談内容を探ることを決めるのでした……

アルキメデスの大戦297話の感想と考察
【キラーワード】
史実ではアメリカが対日石油輸出禁止を決めたのは8月1日となっています。
作中では現在7月22日で、8月1日までは約1週間の猶予があります。
作者はこれだけの猶予があれば戦争は回避されたかもしれないと言いたいのかもしれません。
野村が日本へ対日石油輸出禁止を「辞さない」とアメリカが言ってきたぞと報告するのと、「通告」されたと報告するのでは大きく歴史は違ってくるかもしれないと。
報告が「辞さない」ならば今一度、政府と軍部が大本営会議を急遽開き、南仏進駐を取り止める可能性もあったかもしれない。
「通告」ならばこの報告は窮鼠猫を噛むじゃありませんけれど、逆に軍部が突き進む推進力になってしまったのかもしれない。
この歴史的「もしも」を作者は訴えているのでしょう。
丹原も言っていましたが、確かにこれは相当に重要な問題です。
にも関わらず「辞さない」も「通告」も一緒だとし、あくまで「通告」されたと報告をするよう野村は命じてしまいました。
誤訳を疑われ、自身のプライドが柔軟性を奪ってしまった格好です。
となると…丹原に何ら罪はありませんけれども、「通告」と聞かされた時点で誤訳を疑っていた訳ですし、結局報告とは別に独自で確認を取るつもりなんだったら、野村を逆撫でするようなことあの場で言わなきゃよかったのにと思ってしまいました。
結局のところ丹原も野村同様に「石油輸出禁止」というキラーワードに動揺し、一瞬思慮が浅くなってしまったということなのでしょうか。
政府が野村大使ではダメだと気づき、慌てて来栖三郎大使をアメリカに派遣したのは10月になってのことです。
ちなみに派遣したのは時の首相、東條英機。
せめてルーズベルトとチャーチルが大西洋上で会談を持つ8月14日までに来栖大使を派遣していれば何か違った展開になったのかもしれませんが、そこらへんを作中でまた今回みたいに描くのでしょうか。
なんだか細かな作者のタラレバ論が続きそうな予感……
<< 296話 | 一覧 | 298話 >> |