2021年11月1日発売の週刊ヤングマガジン2021年49号で、『アルキメデスの大戦』第288話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第288話は、航空機開発に絶望する堀越に、希望を持たせようとする櫂の姿が描かれます。
「ゼロ戦」の改良を訴える櫂に対し、堀越は自分たちに訴えるのではなく海軍に要求してほしいと答えた。
櫂は堀越の言葉で全てを察し、自分がお門違いなことを言ったことを謝る。
堀越は櫂の言い分はもっともだと話し、なぜ「ゼロ戦」のデザインにこだわったのかを話し始めた……
本記事では、『アルキメデスの大戦』第288話[技術者の心]のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦288話のあらすじネタバレ
【筋違い】
堀越が設計した「ゼロ戦」は櫂の目には搭乗員の命を軽視しているように映りました。
そこで櫂はゼロ戦に搭乗員の命を守る装備を取り付けてくれるよう設計の変更を願い出ますが、堀越にすげなく断られてしまいます。
なぜなら堀越ら三菱にはゼロ戦の性能変更を自由に決められる権限など無いからでした。
堀越ら三菱はいち民間企業であり、発注どおりの製品を作って納品するまでが仕事の範囲。
勝手に性能変更をどうこうできる立場にありません。
堀越はゼロ戦の性能の変更を自分たちに訴えるのはお門違いであり、それは海軍に訴えるべきだと櫂を諭します。
それを聞き、櫂は我に返る思いでした。
坂巻とのことが頭に浮かび冷静さを失っていたとはいえ、感情の赴くままに堀越らに筋違いの要望を訴えていたことを自ら恥じます。
櫂は堀越らに頭を下げて間違いを詫びるのでした……
【美しく弱いゼロ戦】
会合を終えた櫂は玄関口へと向かい、堀越も見送るため一緒に同行します。
外は陽が落ち始め、空を紅く染めていました。
その時、夕焼け空をバックに先ほど見た三機のゼロ戦が編隊を組んで飛んでいくのを櫂と堀越が目にします。
堀越は飛びゆくゼロ戦を見ながら、櫂の指摘や提案はもっともなことだと櫂に話しかけました。
そしてゼロ戦は櫂の言うとおり「飛ぶ棺桶」であり、危険極まりない航空機であると……
堀越も設計開発当初に防弾を欠くことについて海軍に強く懸念を伝えていました。
しかし海軍からの返答は耳を疑うような言葉ばかり。
「敵の弾に当たらなければ良い」
「乗員の技量で敵をかわす」
海軍は堀越らの懸念をこういって問題は無いと押し切りました。
これによりゼロ戦は防護設備を無視した海軍の性能要求に限界まで最適化した設計となってしまったのです。
要求を実現させるべくギリギリまで突き詰め完成させた設計。
そのためにゼロ戦の拡張性はほぼ皆無に等しく、櫂のいう発動機の変更や防弾装備の追加には耐えられないものとならざるを得なかったのでした。
堀越はこれら設計までの経緯を櫂に話し、ゼロ戦には改良の余地が残されていないことを伝えます。
そしてだからこそ、機体だけは美しくあらねばならない、守ってあげられないならばせめて乗員たちを美しく飾ってあげなくてはならないと考え、機体のデザインしたことを打ち明けました。
堀越の話を聞き、櫂はふと平山中将もまた堀越と同じように美しさに拘り、固執していたことを思い出します。
堀越と平山に共通する「美しさ」への思い、櫂はそれが少しだけわかった気がしていました。
それは「ゼロ戦」と「大和」は堀越や平山にとっては日本の国そのものなのかもしれないということ。
同時に両者に共通する悲劇的末路も櫂は感じ取っていました。
戦時下ということもありましたが、堀越が航空機開発に絶望しているのかもしれないと感じられたのです。
類まれな才能の持ち主である堀越に航空機開発に対して希望を見出してはもらえないかと櫂はある誘いを堀越に持ち掛けます。
それは海軍が極秘裏に進めている航空機用ガスタービン発動機開発の現場視察への招待でした。
ドイツ人科学者を中心に進めらている発動機の開発は最終段階を迎えており、それを堀越に見せようという訳です。
櫂の思わぬ誘いに堀越は子どもが返事をするように二つ返事で誘いを快諾。
その目は先ほどまでと打って変わってランランと輝きを放っていました……

アルキメデスの大戦288話の感想と考察
【橘花(きっか)】
今回、話は急展開。
防護装備の話から堀越とジェットエンジンを櫂が結びつける展開になるとは思ってもいませんでした。
当時、堀越のいた三菱も独自に航空機用排気タービン過給機の開発をしていたはずなので作中の堀越の驚き方は少々大げさかも。
ですが三菱も石芝も日立や川崎も開発はしていたものの、ドイツのように信頼性のある大出力の発動機を作ることは出来ませんでした。
結局ドイツの潜水艦がもたらした一枚の写真によって敗戦直前になってまともなものが出来上がったのです。
この史実を踏まえて次回を読むと面白いかもしれませんね。
メッサーシュミットMe262の小振り版ともいえる「橘花」の試作機が作中に登場するかもと期待。
ただ名が示す通り、「花」が付けられた航空機なので複雑ではありますが。
【珍しい櫂】
今回、櫂は自分の筋違いな要望を恥じて素直に頭を下げて謝りました。
珍しいです。
頭を下げたことが珍しいのではありません。
こんなちょっと考えれば誰だって筋違いだとわかることすら見えなくなってしまっていたことが珍しいのです。
感情が先に立ち、見えなくなってしまっていたのでしょう。
それだけ坂巻の死が櫂の胸に深く刻まれている証拠。
普段は沈着冷静、合理的判断で動く櫂ですが、こういった場面を見るとなかなか情に厚いことも窺えます。
ここまで何人もの人間とそれなりに密な関係を築き、連載当初よりは人の気持ちや思いを汲み取れるようになったのかもしれませんね。
ただ女性に対しての配慮や良い意味での執着は連載開始当初から一貫して皆無ではありますが。
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