2020年2月10日発売の週刊ヤングマガジン2020年11号で、『アルキメデスの大戦』第204話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第204話は、難題の妥結条項を抱え、櫂が日本へ帰国の途につきます。
日米和平協議はルーズベルト大統領と櫂によるツートップ交渉の末に仮調印を結ぶに至りました。
米国側ではマッカーサーら軍関係者は開戦の危機をとりあえず避けられたことを喜んでいましたが、大統領のブレーンである経済学者のガードナーは仮調印を不服と考えていました。
なぜなら、ガードナーとしては日本との開戦は米国にとって”お得”と考えていたからです。
一方、日本側では交渉もせず仮調印に署名だけした牟田口が、さも自分が大仕事を成し遂げたような顔をしていました。
海軍の田中らはそれを苦々しく思っていましたが、大事なことは戦争を避けることで、誰の手柄だとかなど些事にすぎないことだと櫂は意に介しません。
櫂はそんなことよりも、帰国後に待ち受ける妥結条項に対する軍や政府、なにより国民の反発を懸念していました…
本記事では、『アルキメデスの大戦』第204話[交渉の余波]のあらすじと感想を紹介していきます。
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦204話のあらすじネタバレ
ルーズベルト大統領と牟田口少将によって妥結条項が記された文書に署名がなされ、正式に仮調印が成立しました。
両国の協議団は拍手で協議妥結を喜び合います。
その最中、マッカーサーが櫂に感謝の意を込め視線を送ったところ、偶然にも櫂もまたマッカーサーに視線を送っていました。
目だけで礼を述べる櫂にマッカーサーも目だけで呼応。
戦争を回避したかった者どうし、無言で仮調印の喜びを分かち合う二人。
そんな二人の視線のやり取りを大統領ブレーンの経済学者ガードナーが気づきます。
もしかしたら櫂とマッカーサーは裏で結託していて、この交渉が二人の筋書き通りだったのではないかと邪推。
だとしたらこんな合意などは認められない、やはり破棄すべきだとの考えを改めて強く思うのでした。
調印式が無事に終わり、日本側協議団は会場を後にします。
陸軍大尉の瀬島は牟田口の労をねぎらいます。
署名しただけだと謙遜してみせる牟田口でしたが、瀬島の言った歴史に名を標されたの言葉にまんざらでもない様子。
部屋に戻って祝杯だと上機嫌です。
そんな牟田口の様子を見ていた櫂や海軍の田中、大使の堀内。
田中は交渉をしたのもまとめたのも櫂なのによくもまぁデカい態度でいられるよなぁと呆れます。
交渉妥結の手柄を横取りされたようで腑に落ちないと話す田中に、個人の手柄など些事にすぎず、大事なのは戦争を回避することだと諭す櫂。
木を見て森を見ずでしたと敬服する田中でした。
櫂はそんなことよりも妥結条項を日本政府、軍人、国民にどうやって認めさせるかを思案していました。
それは日本からすれば受け入れがたい条件ばかりであったからです。
おそらく一部の軍人や政治家、新聞は交渉結果を敗北と騒ぎ立て国民を煽るに違いありません。
その結果、戦争世論が高まり、戦争を望む一部の人間たちに力を与え、妥結条項を実現不可能に追いやられでもしたら仮調印はあっけなく無効となってしまう…
そうならないためにも、交渉の目標は日米戦争回避であり、そのための妥協は決して敗北ではないことを広く理解してもらう以外にないと考えていました。
つまり今回の協議、日本は「負けて勝った」のだと。
ルーズベルト大統領ら米国側協議団も会場を後にします。
大統領の車にはガードナーが同乗していました。
ガードナーは協議が妥結したとはいえ仮調印であることを大統領に強調します。
日本側がひとつでも条件を不履行するのであれば簡単に破棄できるとし、日本が妥協した条項が実現するとは思えないと断言。
櫂ごとき若造に日本の根幹が変えられるはずはないと。
しかし、ルーズベルトはそうは考えていませんでした。
密室での濃密な時間により、櫂という人物が信頼に値することを実感していたからです。
とりあえず日本との戦争問題は一応片付いたとし、来年の大統領選に集中しなければならないとガードナーにいいます。
ガードナーはモチロンですと相づちを打ちつつ、選挙後はドイツと日本を完膚なきまで叩き、アメリカのための世界秩序を作り上げ世界を支配しましょうと進言。
これには直接答えることを避けたルーズベルト。
まずは選挙に勝ってからだと…
後日、櫂たち協議団は帰国の途につきます。
帰りの飛行機内、櫂は今回の協議に先立って戦艦「大和」の情報をあえて米国側にリークし、日本との戦争は危険だと不安を煽らせることから始めたことを思い返していました。
身の危険を承知でそれに協力してくれたマキコの存在なくしてこの妥結結果は得られなかったと…
その頃、日本では特高がマキコをスパイ認定し、監視対象者として泳がせていました。
それはマキコに情報を流している軍人を突き止めるため…

アルキメデスの大戦204話の感想と考察
前回に引き続き、牟田口少将のダメっぷりが光っていました。
何度もいいますが、実在した人物です…。
あくまでエンターテインメント作品ですので牟田口少将がこのようなダメ人物であったとは決して思いませんけれど、ここまでダメに描かれるとやっぱり面白いですね~☆
ダメな軍人であり政治家として作中でまばゆいばかりの輝きを放っています。
さて、特高は赤狩りの他にも、この頃は非戦主義者狩りやスパイ狩りが主なお仕事でありました。
特高の名前通り、有無を言わさぬ強権的組織であったことが記録などから窺えます。
尋問は拷問とセットが当たり前。
全国で何人もの人が特高による尋問で亡くなっています。
マキコは完全にスパイとして認定されていますので、いずれ捕まるのは間違いないでしょう。
尋問で櫂のことを訊ねられ、その過程で陰湿な拷問がマキコに施されることが想像に難くありません。
マキコの性格上、櫂の事を話すはずもなく、結末に関しては悲しい予感しかしません。
櫂を愛しはじめていることからも、マキコは櫂の名を最後まで口に出さず、自死を選ぶのではないでしょうか…
櫂はこれまでに何回かピンチに陥った時、関係を持った女性に助けられてきましたからね、今回もおそらく…。
今回で和平協議編は終わりました。
史実の世界に住む我々にとって歴史修正ともいえるような櫂による数々の案は所詮、”もしもあの時”案。
けれど「アルキメデスの大戦」の世界ではそれらの案がコツコツとではありますが確実に歴史を変えてきています。
これを史実と照らし合わせて虚しいと感じる方もいるでしょう。
けれど、その虚しさもひっくるめて楽しむのが仮想歴史物語というジャンルのエンターテインメント作品を消費するということだと思います。
事実に嘘を織り交ぜ楽しませる、その醍醐味を感じさせてくれる章であったのではないでしょうか。
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