2019年11月18日発売の週刊ヤングマガジン2019年51号で、『アルキメデスの大戦』第194話が掲載されました。
『アルキメデスの大戦』第194話は、もはや和平協議なのか貿易協議なのか分からなくなるほど櫂のセールストークが冴えわたります。
戦艦「大和」に関しては設計思想から具体的な工程に至るまで関与してきた櫂。
それはまさにセールスポイントを熟知していることに他なりません。
さらに都合が良いことに米国は来年 大統領選挙。
櫂は再戦を狙うハル達ルーズベルト陣営にとって「大和」の購入は追い風になると説明します。
いったいそれはどういう意味なのでしょう…
そして、櫂のセールストークにも問題がないわけではありません。
数字は裏切らないと話す櫂ですが、米国の体面や体裁、そしてハルの心情といった数字では解決出来そうもない問題にはいったいどうやって対処するのでしょう…
諸々の問題を抱えたまま協議は折り合いがつかず平行線のまま…
そんな時、櫂を焚き付けた張本人であるマッカーサーがある提案を持ちかけます。
本記事では、『アルキメデスの大戦』第194話「大和の価値」のあらすじと感想を紹介していきます
※ここから先はネタバレ注意です。
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アルキメデスの大戦194話のあらすじネタバレ
櫂の提示した「大和」のお値段30億ドル。
この金額がお値段以上なのか以下なのかを測りかねているハル国務長官。
ですがこれが法外なお値段であることは、常識的に考えて理解はしていました。
現在の米国の国家予算が93億ドルであることから、戦艦一隻に国家予算の三分の一はあり得ないだろうというわけです。
そんな法外な金額は払えないと突っぱねるハル。
当然、櫂はそんな米国側の反応などは想定の範疇。
ハルに「大和」が安い買い物である理由を簡潔に説明します。
米国は欧州戦争の特需があり、現在2%の経済成長率は今後急成長が見込めること。
であれば、仮に年成長が10%になると考えれば、「大和」はわずか3年で採算が取れる案外安い買い物なのだと櫂はいいます。
櫂の言っている事はあくまで”見込み”の話。
しかし、戦争特需による成長率アップは、戦争不介入が基本方針であったにも拘らず、それを”見込んで”欧州戦争に介入した裏事情が米国にはあります。
よって、櫂の言う成長率を担保とした説明には黙る他ないハル。
それでもハルは櫂の提案を非現実的であるとして否定。
仮に「大和」を購入した場合、国民は金で脅威を排除したとみなし、これを外交的敗北と捉えかねないと櫂に告げます。
これに対し櫂は、ハルは何か誤解をしているといい、「大和」購入は単なる軍事上の話だけではないことを伝えます。
「大和」はユダヤ人科学者からの要望もあって、世界基準である米国国家規格協会(ANSI)に基づいて建造中でした。
船体の部材、部品、ネジ一本から米国規格で建造を進めているのです。
これによって米国は「大和」購入後も船体の修理、整備、における部品も国内で調達が可能となり、運用面で困る事はありません。
櫂は「大和」購入は、大型戦艦を一から作る労力、コスト、時間を省き、統一規格による利便性などの経済的合理性があることをハルに説明。
「大和」が米国規格で作られていることを知ったハルは驚きを隠せません…
さらに櫂は畳みかけるように、ハルたちにとって”オイシイ話”を語ります。
工業規格の統一は、日本が米国とともに太平洋地域で大きな経済圏を築こうとする決意の表れだとし、両国間の貿易をウィンウィンにするものだと力説。
米国はそれを足掛かりに中国や東南アジア諸国への進出を加速させることが容易となり、貿易ルートの拡大が見込める。
このことを国民に強く訴えれば「大和」購入は必ず理解を得られるだろうし、
尚且つ、国民の支持を得られるという事は、ルーズベルト政権にとっても追い風となるのでは?と、暗に来年に控える大統領選をチラつかせる櫂。
米国側の席で櫂の話を聞いていたマッカーサーは、大統領選をチラつかせた巧妙な櫂の説得に感心していました。
しかし、ハルが櫂の言うことを大筋で納得したとしても、日本側の提案二つを丸呑みするとは思えないとマッカーサーは読みます。
なぜなら、すんなりと提案を呑んではハルの政治家としての面子が保てないから…
マッカーサーの読みは当たります。
ハルは櫂の言う提案は金銭で問題を解決しようとする姿勢が見え隠れし、商売的であると断言。
政治家として、商売人のように損得だけの価値基準で判断は出来ない。
つまり、政治家として信念を曲げることは出来ないというのです。
信念とは、米国は法と正義の国であり、判断は正義が否か。
そんなハルの言葉を即座に否定する櫂。
米国の正義などハル達の主観でしかないと言い、正しいか正しくないかはただの感情であって、この提案は合理的判断で決めるべき事案だと諭します。
和平を実現し、国民の日常生活を保障することは全て国家の経済力によって実現するもの。
経済力が国家を守る、つまり平和は金で買うものだと。
再び黙り込むハル…
論理的に考えれば櫂の言っている事が”正義”なのはハルもわかっていました。
しかし、印象として、金銭で解決したと多くの国民が思うであろうことは容易に想像がつきます。
それは国民に”忠誠の誓い”をハルは破ったと捉われかねません…
ハルの心情を察するマッカーサー、ここである提案を持ちかけます。
この事案は高度な政治的判断が要求されるとし、米国最高権力者である大統領に決めて貰うのはいかがだろうかと。
ルーズベルトをこの場に呼ぶというマッカーサーの提案に驚く櫂…

アルキメデスの大戦194話の感想と考察
櫂のセールストークは今週で2週目ですが、まだまだ続くことが判明しましたね。
予選通過といったところでしょうか。
決勝ラウンドの相手はどうやらルーズベルト大統領になりそうです。
今週面白かったのは、ハルの・・・というよりも米国の理念が上っ面の綺麗事だというのが見えたことでした。
米国では政治家に限らず、あらゆる人たちが国旗や国歌のもとで国に忠誠を誓う姿を見せます。
胸に手をあてるアレです。
国に正義と忠誠を誓っているんですね。
そんな正義を都合の良いように使うハルや米国に対して、櫂は正義なんてものは、あんた方の感情にすぎない!と言い放ったわけです。
あの場面にはスカッとさせてもらいました。
自国の利益に繋がれば、それが極端な事をいえば悪でも強引に正義とするのが、今も昔も変わらぬ米国スタンダードであることを作者は痛烈に批判しているのです。
しかし、これは残念ながら米国に限ったことではなく、日本とて同様であることも作者は中国における陸軍の動きを通して読者に伝えています。
作者の人間と戦争に対する理念や無念を感じられますよね。
さて、和平協議にルーズベルトは登場するのでしょうか。
通常ならばあり得ません。
トップはトップとしか交渉しないもの。
だからこそ櫂もルーズベルトがほんとに来るの?と驚いたわけです。
別名”戦争屋”と言われるルーズベルト相手に、櫂は戦争回避を勝ち取る事ができるでしょうか。
ルーズベルトはチャーチルやスターリンと策謀を巡らし日本との戦争を模索しているでしょうし、なにより日本がドイツとの関係を清算しない限り、アジアの利権を手に入れたとしても決定的な和平は結べないと考えているはず。
櫂もそれは十分わかっているでしょうから、この協議の落としどころは”当面”の戦争回避といったところで落ち着くのかもしれませんね。
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